にかにかブログ

にかにかが、経験したことを記録するエッセイです。

新しい友達

最近新しい友達ができた。

 

私にとっての友達とは、2、3回は遊びに行ったことがあり、かつ正式に付き合っている恋人や血縁関係の人以外の人のことを指す。

 

新しい友達は、大学の文学系の学部を出て、その後医療系の専門学校に通っている。大学を卒業してから専門学校に通う人はなかなか珍しいと思う。仮にその友達を向日葵さんと呼ぶことにする。

 

向日葵さんとは、イベントで知り合った。イベントの詳細を話すとなかなかに個人を特定されてしまうので、大雑把に説明すると、有名な方が来てありがたい話をしてくれるというものである。講演の後には、参加者同士で懇談をする時間も設けられていた。

 

懇談の時間があるのは、イベントの後の恒例行事と言っても過言ではない。しかし私はかなりこの時間が億劫だった。なぜなら、懇談中に、インスタグラムやFacebookやLINEを交換することがままあるのだが、大体の人とは繋がったきり連絡を取ることが2度とないからである。

 

その日も「ああ、懇談の時間になってしまったな」と面倒臭い気持ちでその時間を迎えていた。正直、「私はこの後用事があるので」と主催者に一言残してすぐにその場を立ち去ることができる人が羨ましかった。なぜなら私は、バカがつくほどの正直者で、本当に用事がないと、「この後用事があって...」という言い訳すらも言うことができなからである。かといって、イベント終了の後にわざわざ用事を作るほどでもない。結局その日も、「普段知り合うことのない人と話すいい機会だから」と自分に言い聞かせ、その場に残ることにした。

 

 

そんな姿勢で残っているものだから、話をしていても、「この人と2度と連絡の取ることはないんだろうなー」とぼんやり考えていたし、「連絡先を交換しましょう」と言っても「いいですよ!(2度と連絡を取ることもない)連絡先を交換しましょう!」と思っていた。

 

私は2-3人と喋って満足してしまった。会話が一区切りして、会話相手が、他の人とも喋りたいからと自分の元を離れていった。

 

私は、ひとりぼっちになりつつあることに焦りを感じつつも、まだまだ会場の人々が空きもせずに喋っているのを遠い目で眺めていた。とは言っても一人でぼーっと立っているわけにもいかず、ふとテーブルの上に準備されたお菓子を物色することにした。

 

テーブルの上にはハッピーターンやポッキーなどの普通のお菓子に混ざって、大手まんぢゅうが置かれていた。大手まんぢゅうは岡山県の有名な和菓子で、ちょうど良い甘さのこし餡が半透明の薄い生地で覆われているお饅頭である。(岡山に行った際はぜひ食べていただきたい)

 

www.ohtemanjyu.co.jp

 

私は親が岡山出身ということもあり、岡山県には時々帰省していた。その当時も岡山県に帰省して大手まんぢゅうを買ったばかりだった。自分の大手まんぢゅう熱が高い時に、たまたま行ったイベント会場に大手まんぢゅうが用意されていたものだから、私の心が弾んだのも納得だった。

 

誰か岡山県にゆかりのある人物がこの会場に紛れているのだろうかとぼんやり思いながら、意気揚々と大手まんぢゅうに手をつけた。

 

私が大手まんぢゅうに手をつけた理由は、もう一つある。それは、食べ物を食べていると人と会話する必要がないという理由である。「私は今、ひとりぼっちなのではなく、ただ、お菓子を食べるのに忙しいんですよ。決してひとりぼっちではないんですよ」と、アピールすることができる。誰に説明するわけでもないが、ああいうソーシャルな場ではそういう風に思っていないと心が折れそうなのである。

 

かなり嬉しい気持ちで大手まんぢゅうを頬張っていると、テーブルの近くにも、誰とも話していない女性が1人いた。その女性が向日葵さんだ。目が合ってしまったので、無視するわけにもいかなかったり、大手まんぢゅうのせいでかなりご機嫌だったので「食べますか?」とかなんとか話しかけてしまった。お菓子を食べながら、今学生なのか、とか、なぜこのイベントに参加したのか、みたいな話をした。

 

 

向日葵さんともだいたい基本的な話をし終わってしまった。しかし、大手まんぢゅうのおかげでご機嫌だった私は、「こういうイベントで連絡先を交換しても、その後連絡取ることなんてほとんどないんですよね。ちょっと勿体無いですよねェ〜」と、本音を暴露していた。

 

そしたら向日葵さんも「勿体無いですよね!前にイベントに参加した時に知り合った人とも、それっきり会っていないんですよ!」とかなりの感度で共感してくれた。だから、私も、以前どんなイベントに参加したんですか?などと、また話を弾ませてしまった。気づけば、かなり話し込んでしまい、懇談の時間も終了した。

 

懇談の時間が終わって、正式に解散となったため、私はそそくさと会場の出口へ向かった。この時点でしゃべり疲れて、かなりお腹が空いていたので、近くで適当なご飯を取りたいと思っていたのだ。すると向日葵さんが、出口を出たところで、「どちらから帰りますか?」と聞いてくれた。気づくと私は、「帰るのは、最寄りの駅からなんですけど、実は今ご飯食べたくて...。よかったら一緒に食べます?」と言っていた。

 

言ってしまってから、「やってしまった。」と思った。「嘘ついて帰るふりすればよかったのに」と思った。器用に嘘がつけないものだから、こんなことになってしまうのだ、と自分を少し責めたりもした。しかし、言ってしまったことは取り消せない。せっかく声をかけてくれたのだし、まあこんなことがあってもいいだろうと自分を元気づけて、向日葵さんと一緒に駅構内のご飯屋さんを物色した。

 

パスタや中華などなんでも食べられそうな良さげな店を見つけた。私はとにかくお腹が空いていたので、腹が膨れそうなナポリタンと飲み物を頼んだ。ナポリタンと一緒にタバスコとチーズも運ばれてきた。向日葵さんは夜に家で正式な夜ご飯を食べるらしく、5つほどの小さい水餃子と飲み物を頼んだ。水餃子にはすでに醤油らしき液体がかかっておりそのまま食べられそうな感じだった。

 

向日葵さんは、水餃子にタバスコとチーズをかけた。

 

私がそれに気づいたのはだいぶ時間が経ってからだった。向日葵さんは5つほどあった水餃子を既に3つほど食べていた。注意には遅すぎるし、「あなた、水餃子にタバスコとチーズかけちゃってるよ笑笑笑」と注意するほどの仲でもなかった。今後会わないかもしれない人だ、と思い直し、見なかったことにした。たわいもない会話をしながら適当に食事の時間を潰していた。

 

食事を済ませて、駅に戻り、「私はこっちだから。それじゃあ、またね」と言った。そしたら向日葵さんは、「今度どこか行こう、どこかいきたいところある?」と聞いてきた。私が返答に困っていて「登山とか好き?」と聞いてくれたのかもしれない。もう覚えていない。でも30秒後には今度登山をすることが決定していた。気づいた時にはLINEを交換していたし、帰りの電車で「今度登山行こうね」と、メッセージを送っていた。

 

 

2回目に向日葵さんに会った時は、私が高尾山の売店で水を買って、売店から出てきた時だった。

 

出会って2回目に高尾山に行ったことがある人はどのくらいいるのだろうか。とにかく高尾山で私たちは再開した。

 

私は、かなり歩くのが早い方だったので、向日葵さんを多少置いてけぼりにしながら、完全にはおいてけぼりにすることなく時々会話をしながら山頂に登った。途中でおにぎり休憩をしながら1時間半ほどで山頂に到着した。

 

山頂は、外国人観光客やカップルや、複数人で散歩に来た人、年配のご夫婦などでごった返していた。蕎麦屋の行列に並んで蕎麦を食べた。その後、逆光で白飛びした背景に2人並んで写真を撮った。

 

山頂からケーブルカー乗り場までは体感10分くらいだった。ケーブルカーに乗ると、座っているだけですぐに登山口に辿り着いてしまった。もし、読者の中に、高尾山に行って、ケーブルカーを使おうなどと企んでいる人がいたら一言言いたい。往復をしていいのは膝が痛い人や体力がない人、大荷物を運ばなければいけない人だけだ。健康な方には、是非とも1時間半しっかり歩いていただきたいものだ。そうしないと高尾山が全然楽しくない。

 

高尾山を出て中央線に乗って新宿に帰った。新宿でカフェを探した。カフェでトマトパスタを頼んだ。向日葵さんはケーキを頼んだ。この前もトマト系のパスタを食べたなとぼんやり思いながらもパスタを食べた。向日葵さんはその後用事があるらしく、私はせっかく新宿に遊びに来たからと思い、一人でカラオケに行くことにした。

 

カラオケを出るとラインが来ていて、「今度また遊びに行こう」ということだった。私の定義では、友達は、2-3回遊びに行く仲であるため、向日葵さんは友達と認めざるを得ない。

 

3回目に向日葵さんと会ったのは、新大久保の駅だった。私は高尾山に登った頃には、「せっかくできたお友達なので、もっと交友関係を続けていこう」という気になっていた。お友達の良いところは、独りでやる勇気がないことを一緒にやって、楽しさや大変さを分かち合えるところだ。一緒に高尾山に登ってもお互いに嫌な部分があまりなかったので、向日葵さんとは、楽しさや大変さを分かち合うことができそうだと思っていた。

 

その当時、私は、SNSで見たカンジャンケジャンを一度でいいから味わってみたかった。だから、向日葵さんにその旨をLINEで伝え、新大久保でカンジャンケジャンが食べられるお店をGoogle Mapや食べログで探して予約していたのだ。

 

新大久保で落ち合った後に、向日葵さんと一緒にそのお店に入った。KpopアイドルのYouTube動画が永遠に流れていて、オシャレな内装にテンションが上がった。カンジャンケジャンデビューをするのにふさわしいとすら思った。ちょっと高いなァと思いつつ、カンジャンケジャンの他にエビのチーズフォンデュや、ソルロンタンを頼んだ。食べ物の値段も高めだったので、私たちはテーブルにあった水を飲んでいた。

 

ちなみに、肝心のカンジャンケジャンは、甲殻類特有の成分で下がヒリヒリした。あと、思ったより味が濃かった。そして、食べられる部分が少ないなあと思った。大体すごく食べてみたいものとか、すごく欲しいものというのは実現した時に「こんなものか」と思ってしまうものだ。何万回も「こんなものか」と思ってきた経験があることを知っているのに、その日も「こんなものか」が増えただけだった。

 

ご飯を食べ終わって、まだ帰るには早いと思ったのか、ちょっと街を散歩したいとのことだったので、新大久保の大通りを歩いた。ちょっとお店に入ってみたり、目に入った店の特徴を口に出したりしてみた。途中にオレオアイスの店があって、オレオアイスを食べた。

 

アイスも食べたし、さあ解散だと思った。駅に着いて、さあそれぞれの電車に乗るぞと思った。向日葵さんと私は反対方向だったので、山手線のプラットフォームで電車を待った。向日葵さんお方面の電車が来たので、「じゃあね」と言おうとした。そしたら、向日葵さんは、私に相談を始めた。

 

「にかにかちゃんは付き合っている人とかいる?」

「(急に恋バナ?!どうしたんだ?!)うん、いるよ」

「付き合う人に対して何か条件とかあったりする?」

「(今急に言われても困るなあ)うーん、あったかなー。結構前に付き合い始めたから覚えてないかも」

「実は私今いい感じの人がいるんだけど、以前の恋愛でちょっとトラブルがあって...」

 

恋バナが始まってしまった、と思った。同時に繰り出される衝撃に事実に呆気に取られた。向日葵さんが恋愛に興味があるという事実、いい感じの人がいるという事実、次から次へと繰り出される過去のトラブル。いつ帰るつもりなのかなと頭の片隅で感じながらも、話を聞いていた。

 

向日葵さんの過去の話は、私が勝手に話して良いことではないのでここでは伏せさせていただくが、私が、自分の過去を話してもいいと思える対象になったことは素直に嬉しかった。

 

 

その後も向日葵さんとは、連絡をとっていて、先日は、銀座のGUCCIの屋上で開催されていた展示を見に行った。展示を見に行った帰りに、寄ったカフェで、向日葵さんは、「私辛いのが好きで、なんでもタバスコかけるのが好きなんだよね」という話をしたので、私は、「初めて会った時に、醤油がかかった水餃子にタバスコかけていたことをバカにしなくて良かったなァー!!!」と内心ほっとしたりしている。